2011年8月30日火曜日

これまでの被災地での災害医療を振り返り、今後の家庭医の役割を考える!

今回の大震災では、地震、津波の被害が沿岸部を中心に広範囲に及んだことや原発事故の発生により、さまざまな背景をもった多くの方々が避難を余儀なくされた。特に原子力災害という特殊な事情により、地震そのものでは無傷であったのにもかかわらず、原発避難区域内にいた多くの寝たきり患者さんたちが、食糧も医療資源も不十分な中で急遽集団避難を強いられるという状況が発生した。情報網が混乱し十分な医療支援が到達する間もなく、仮避難所や過酷な長距離搬送の過程で20名を超える犠牲者を出してしまう悲劇となった。

また、今回は阪神・淡路大震災や新潟県中越地震などとは異なり、犠牲になられた方の多くは津波による溺死で、地震そのものによる建物損壊で重い外傷を負った患者さんは比較的少なかったことが被災地の各中核医療機関から報告されている。全国から多くの災害支援医療チームが被災地に入ったが、災害発生後数日で外傷への急性期対応は一段落し、その後の避難所での医療ニーズは、交代制で避難所を巡回する災害支援チームの医療に徐々に馴染まなくなっていった。

そのとき、避難所の方々が私たち医療者に求めていたものとは……。

長期化する避難生活では、かぜや感染性胃腸炎などの感染症対策といった急性期の問題への対応はもちろんのこと、高血圧や糖尿病、不眠症や便秘症などの慢性疾患への適切かつ継続的な管理が求められた。避難所にいる多くの方は、たとえば“余震の恐怖や原発事故の不安で眠れない日々が続いた結果、血圧が急上昇し、それがさらなる不安やうつ状態を招く”といった具合に、日常よく遭遇する健康問題を同時に複数抱えていた。災害弱者と呼ばれる高齢者や持病をもっている方、乳幼児や妊婦さんだけでなく、本来健康問題とは無縁と思われる人たちですら、偏った食生活、過度のストレス環境下で徐々に体調を崩していった。

被災地の通常の医療システムが機能しない中、災害急性期から災害支援チームによる避難所の巡回診療が行われ、避難者の健康管理に寄与したことは言うまでもない。その一方、災害発生後10日を過ぎた頃から「たびたびお医者さんに診てもらえるのはありがたいけれど、毎日違うお医者さんが来て、それぞれ違う薬を置いていくから、どれを飲んだらいいかわからない!」「何度も始めから同じことを話さなければならないのが辛い!」といった声が避難所で聴かれるようになった。
先が見えない避難生活の中、継続性の乏しい散発的な医療支援ではカバーしきれない時期にすでに入っていたのだ。その時期には、避難所の方々は包括的かつ継続的に診てくれる“かかりつけ医”を求めていた。

避難所ではときに、自分のかかりつけの患者さんと偶然出会うことがあった。「無事だった?」と尋ねると「先生、来てくれたの~!!!」と喜んでくださる。しかし、避難所には、かかりつけの診療所自体が被災していたり、原発避難区域内にあるという事情で、当分の間かかりつけ医に受診できる見込みが立たない方が大勢いた。
そんな方々のために、普段のかかりつけ医の代わりに多彩な健康問題に対して継続的に診てくれる医師が必要だった。そして、何よりもその役割を果たしたい一心から、可能な限り近隣の避難所を継続的に訪問した。その結果、元々担当していなかった患者さんからも「先生、また来てくれたの~!」と声をかけてもらえるようになり、新しいかかりつけ医として認めていただけた喜びと、共に歩んでゆく使命感を自覚することができた。

家庭医とは「よく起こる体の問題や心の問題を適切にケアすることができ、各科専門医やケアにかかわる人々と連携し、患者さんの気持ちや家族の事情、地域の特性を考慮した医療を実践できる専門医」である。このことは、災害時においてもなんら変わることはない。むしろ「災害時こそ家庭医の役割がより重要になる!」ということを今回の震災の経験を通して確信した。

医療資源が絶対的に不足する被災地では、多科の複数の医師らがチームを組んで避難所を巡回することは困難である。そのようなときこそ、家庭医のように複数の健康問題を同時にケアできる医師が、医療の効率化を図る上で重要な役割を果たすことができる。避難所では、かぜ、頭痛、腹痛、腰痛から、高血圧、糖尿病などの生活習慣病、さらに不眠や抑うつ気分など心の問題に至るまで、よく起こる健康問題を包括的かつ継続的に診る能力が特に求められた。
しかも、災害時という特殊な状況下では、患者さんの気持ちや家族・地域の事情を充分に考慮した医療を、各科専門医やケアにかかわる人々と連携して行う必要がある。これはまさに家庭医を特徴づける能力を存分に発揮すべき場となった。

 避難所を訪問することで、診療所や病院を訪れる患者さんだけを診ていては決して知ることができない、地域で起きている健康問題の全体像や地域の医療ニーズを垣間見ることができた。そこには身体的にも精神的にも社会的にも重大で複雑な問題を抱えながらも必死に耐えている方々が存在していた。その一人ひとりと涙ながらに語り合うことで、この地に生きる家庭医として自分が成すべきことを教えていただいた。

ただし、避難所の状況はあくまでも被災地域のほんの一部を反映しているに過ぎない。たとえば自宅で孤立している独居高齢者への支援も重要であるし、今後は避難所から仮設住宅や一時借り上げ住宅へ移動する方々が、新たな生活の場で孤立することなく自立した社会生活を営むことができることを見届けながら、新たに必要な支援を見極め提供していかなければならない。刻々と移り変わる環境と時間の経過に応じた地域全体の長期的なケアを続けていく必要がある。

地域に生き、地域で働くことのできる家庭医の育成が、福島県の地域医療再生と日本の医療の未来のために課せられた当講座の使命である。

 東日本大震災という予期せぬ事態は、日頃私たちを見守り育ててくれている地域の皆さんのために、この使命を果たすことの意義を私に再認識させてくれている。そして、福島に生き、福島で家庭医として働いていけることが、私に生涯を通して“喜びと誇り”を与え続けてくれることを確信している。

2011年8月28日日曜日

喜多方の直後は郡山へ~ 「平成23年度 福島県鍼灸師会 夏季講習会」

「家庭医療サマー・フォーラムin福島2011@喜多方」の感動も冷めやらぬなか、今日は大事な仕事がもうひとつ!
きれいな磐梯山を左に眺めながら郡山へ移動!
「平成23年度 福島県鍼灸師会 夏季講習会」にお招きいただき、「地域における家庭医の役割 ~鍼灸師と家庭医の共通点を探る~」と題したワークショップをやらせていただいた。
参加者との議論を通し、家庭医と鍼灸師は、それぞれ西洋医学と東洋医学の専門家として、協力し合いながらともに地域の質の高いプライマリ・ケアの提供のために寄与していくべきという結論に達したのだが、とにかく皆さん熱心に議論してくださり、とても嬉しかった。本当に貴重な時間をもてたと思う。

特に感心したこととしては、家庭医やその役割について、かな~り正確に理解されているということ。
やはり、あらゆる症状に対応する点や、近接性、家族志向、地域密着性、個別性など、家庭医と鍼灸師の共通点はとても多いようだ。

これから面白いコラボが出来そうな予感!

早速、講習会の模様を、中沢先生のブログで紹介していただき恐縮の極み。
http://samurai-kid.at.webry.info/
http://samurai-kid.at.webry.info/201108/article_5.html

濃い~!!濃い~!!2日間「家庭医療サマー・フォーラムin福島2011@喜多方」

濃い~!!と言っても、濃いのは喜多方ラーメンのスープの塩分だけではない。
「家庭医療サマー・フォーラムin福島2011@喜多方」・・・本当に内容の濃い2日間だった。

1日目>
勉強の前にはまず腹ごしらえ、というわけで地元の方々に人気の某喜多方ラーメン店に昼ラー目的に並ぶ・・・
店頭には「ラーメンの 香りただよう 蔵の町」と刻まれた石碑が・・・
ていうか行列長っ!!!
危うくフォーラムに遅刻しそうだった。
<内容>
Reflection of the Month「腰痛の治療 ~トリガーポイントと腰痛体操~」
後期研修医4年目武田仁
慢性腰痛に対する腰痛体操の有効性と、急性腰痛に対する治療の選択肢としてのトリガーポイント注射について学んだ。日常診療からわいた疑問をベースに良くまとまったプレゼンに感心しつつ、日頃なんとなくやっているトリガーポイント注射も時に「アリ」なんだな~ということが確認できた。
Reflection of the Month「ポートフォリオで遊ぼう!」
後期研修医3年目佐藤寿和
日々の学びを効率よく楽しく記録にまとめるコツが提案され、参加者に支持された感じ。それにしてもS氏には「爆弾発言キング」の称号を与えたい!
③あっちゃんの考える診断学
助教 石井敦
あたらしいコーナーとして試行させてもらったが、結構盛り上がったかも・・・
正確な診断をする上で、思い込みの危険性を認識し、患者さんの訴えと症候を一つひとつ丁寧に検証することの重要性を再確認した。幸い没企画にならず、次回以降もやっていいということなので、家庭医らしい診断学を学べるセッションとして改良していきたい。
健診・医療・介護データの医療福祉政策への活用にむけて~その1~
 助教 田中啓広
 地域住民全体の健康指標を向上させるため情報抽出が期待できるデータを共有した。とても貴重なデータで今後の解析結果が楽しみである。
Cinemeducation
 葛西 龍樹 主任教授
 オータム・イン・ニューヨーク(2000
 予防医学から緩和医療に至るまで、家庭医の役割について深い議論が展開された。

懇親夕食会では、拷問クイズ大会!!
喜多方チーム・・・ホント怖ぇ~
旨い酒を飲み過ぎて、ついつい夜(午前様)ラーへ!
人はどうして締めのラーメンを求めるのだろうか?

2日目>
午前様ラーの影響で、楽しみにしていた朝ラーを断念!
無念・・・
7時にラーメン屋に普通に並んでる喜多方市民って一体・・・

<内容>
ジェネラリストと全人医療
後期研修医4年目武田仁
ジェネラリストの歴史から現代の医療における役割に至るまで深く掘り下げてた知見が示された。普段わたしたちが目指している医療が、とても格式高いもののように感じた。
福島県における家庭医と地域包括ケア
 地域・家庭医療学講座 高栁宏史
 県内各地の各家庭医療研修サイトにおける現状と問題点を明らかにし、今後の具体的方策について提案がなされた。道は険しいかもしれないが、まずは前に進むことを始めなければいけない。

2011年8月25日木曜日

詳細情報! 家庭医療サマー・フォーラム in 福島2011 @いわき

家庭医療サマー・フォーラムin福島2011@いわき
~フラ・ガールと家庭医療を学ぼう!~

1日目:2011910日 14時~17時15分
2日目:2011年9日11日 9時~11時30分
場所:(社医)養生会 かしま病院 コミュニティー・ホール

1日目>
①特別講演「プライマリ・ケアでの感染症診療」スペシャルゲスト 岩田健太郎先生
(神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授)
 日常の臨床上の疑問を解決しよう!
 
Reflection of the Month 後期研修2年目 山入端 浩之
 家庭医療に関する症例検討
  
Cinemeducation 葛西 龍樹 主任教授
 映画を用いた家庭医療教育セッション

懇親会(17時15分~19時):フラ体験コーナーなど
2日目>
④考える診断学 助教 石井
 手ぶらで診断にチャレンジしてみよう!
  
Reflection of the Month  後期研修4年目 星 吾朗
 家庭医療に関する症例検討
 
⑥ワークショップ「災害と地域ケア」 かしま病院 看護部 鈴木則子さん
 震災急性期から最前線で被災者のケアにあたっている看護師さんと地域をケアすることについて考えてみよう!

~参加費(宿泊費・懇親会費込)~
学     生 : 5,000円
初期研修医 : 10,000円
そ   の   他 : 12,000円
(1日だけの参加の場合など、費用は別途ご相談下さい)
家庭医療に興味のある方ならどなたでも大歓迎です!
*お問合せ等は 福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座
TEL:024-547-1516 / E-mail:comfam@fmu.ac.jp (担当 國分)までお気軽にどうぞ!

2011年8月23日火曜日

福島だからこそ学べる家庭医療を知ろう!

福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座が提供する家庭医療学専門医コース

下記の予定で、そのプログラムの説明会を行ないます。

日時:平成23年9月16日(金)20時~
会場:茶寮「おりおり」 福島市栄町19-5ユートピアビル2階・4階 (024-524-3233)
一度きりの人生。
今の福島だからこそ創ることができる新しい日本の家庭医療を、共に開拓してくれる仲間を募集しています!

興味のある方は・・・
comfam@fmu.ac.jp
(事務担当:國分)まで気軽にお問い合わせください。

2011年8月19日金曜日

専門鍼灸師?

福島県鍼灸師会 平成23年度夏季学術講習会
期日:平成23年8月28日(日)
    午後1時50分~(受付は午後1時40分より)
会場:郡山駅前ビッグアイ7階 市民交流プラザ第2会議室
受講料:福島県鍼灸師会会員      :無 料
    上記会員の従業員      :3000円
    全日本鍼灸学会会員(県内):3000円
    鍼灸学校学生        : 500円
     一般鍼灸師(非会員)   :5000円
内容
14:00
15:30講演1『福島で放射線と生きる~遺伝子の損傷修復と動的平衡』
   講師 中山歯科矯正医院院長
      歯科医師 統合医学博士 中山 孔壹 先生
15:3016:00症例発表:東北鍼灸学会発表リハーサル
   「鍼灸が奏功した膝関節水腫とその後のケア」
   演者  
福島県鍼灸師本会青年部 永山 剛士 先生
   座長  
福島県鍼灸師本会青年部 白井 和弥 先生
16:0017:30講演2『地域における家庭医の役割~鍼灸師と家庭医の共通点を探る~』
   講師 福島県立医科大学医学部 地域・家庭医療学講座
      助教 石井 敦 先生
()福島県鍼灸師会HPより


ひょんなことから鍼灸師の先生方とのディスカッションの機会をいただけることになった。
自分は東洋医学の素人ではあるけれど、鍼灸師の先生のイメージは、ただ単に主訴だけを確認しておもむろに治療をするのではなく、問診、視診、触診などあらゆる手段を駆使し身体全体の健康状態に関する情報を集め把握してから治療方針を決定していく感じ?

当然、患者さんの症状の種類や部位に関わらず診療していることだろう。
もちろん、健康増進や未病の状態への対応などの予防医学から緩和医療まで病期あらゆる段階で役割をもっているところも誰かさん(家庭医)と一緒だなぁ~
ところが、鍼灸師の世界でも、近年、専門分野に特化した鍼灸院が見られるようになってきたそうな・・・

勿論、治療が難しい状態に対しては「専門鍼灸師」という存在は必要だろう。しかし、今時なんでも相談にのってくれる医師が少なくなってしまったのと同様に、気付けば「今時どこでも診てくれる鍼灸師さんなんていないよね」なんてことにならないことを祈る!

「家庭医」と「鍼灸師」は、それぞれ西洋医学と東洋医学の専門家として、地域の質の高いプライマリ・ケアを提供する。
そして、治療が困難な患者さんに限り「専門医」または「専門鍼灸師」に紹介するという分業が必要になってくるだろう。

講習会当日、こんな話で盛り上がりたい。