2011年5月26日木曜日

「家族志向型ケア ⑦」

今回は、「家族志向型ケア」の残りのコンポーネント「患者・家族と医療者がケアのパートナーになる」「医療者が治療システムの一部として機能する」「家族もケアの対象である」について一気に解説します。
「患者・家族と医療者がケアのパートナーになる」については、患者・家族と医療者がお互いに一方通行にならずに、両者が同じ理解基盤に立って信頼関係を持つ必要があります。医療者が一方的に治療を施そうとするのも、逆に総てのケアを家族に放任してしまうのも、パートナーシップとは言えません。もちろん、このようなパートナーシップはすぐに確立できるものではなく、皮肉にも、患者さんの容体が悪化して家族と医療者が「一緒に危機を乗り越えよう」と頑張った時に強化されやすいようです。
次に、「医療者が治療システムの一部として機能する」とは、いろいろな職種のスタッフがケアに関わるときに、ケアのシステム全体がより良く機能するために自分に何ができるかを考え、行動することが重要だということです。ケアにかかわるすべての人々が協力し、ケアのシステムを構築していくことで、「自分のみがケアの主役だ」と思いこむことも、「指示されたことだけをすればよい」と思うことも避けられます。それぞれが、それぞれの視点から問題をとらえ、評価し、みんなで相談して計画を立て、責任を持って自分の仕事を遂行し、その成果を評価し、改善計画を立てることの繰り返しが求められます。
最後の「家族もケアの対象である」ということは非常に大事なことでありながら、しばしば見過ごされています。しかし、患者の危機を乗り越える時、家族と家庭医はパートナーであり、そのパートナーが傷ついていれば、そのことを見逃してはいけないのです。例えば、配偶者や親の介護にともなう不眠や疲労などを訴える家族のケースが増えています。家庭医の強みは、担当できる問題の広さゆえ、どんな家族の問題にも耳を傾け、対応してケアできることです。介護からくる疲労、心痛によって発生する疾患の予防や早期発見にも努めていきたいと思います。

未曽有の災害のために、避難の規模も期間も過去に例がなく、ケアが非常に難しい状況が頻発しています。
でも、こんな時だからこそ、利用できるすべての介護・医療資源を総動員して、危機を乗り越えていきたい。

もっとも大切なこと ~学生の地域医療実習~

おっと!!

まいど「オッぺケぺ~」ていうか「デレスケ」なので、昨日の投稿で、もっとも大切なことを書き忘れていました。

患者さんに臨床実習への協力の同意を得る時、

「学生さん 云々・・・」

と切り出すとほとんどの場合、

“えっ?”

一瞬、場が凍るというか、患者さん・ご家族に不安がよぎるという経験をします。

ここは大学病院ではないので、利用する側の患者さんやご家族に、“医学生がいるかも”という暗黙の了解が出来ていないので無理もありません。
勿論、院内掲示などで周知を心がけますが、なかなか難しいようです。
もともとベテランの先生方が多い医療機関なので、“研修医がいるかも”という暗黙の了解すら出来ていない状況ですから・・・

しかし、熱心な学生さん達が、私どもよりも丁寧かつ基本に忠実に医療面接を進めていくと・・・
患者さん・ご家族の表情がみるみるやわらかくなっていき、

「こんなにきちんと診てもらったもは初めてだ」

と、我々の立場なし!
という状況にもなり、

時に

「頑張って良いお医者さんになってくださいね」

などど、励ましの言葉をいただいたりもする。

そんな様子を見るにつけ、学生もまた「治療システムの一部として機能する」ために、それぞれの立場で責任を持って役割を見出していくことの重要性を実感することができる。

患者さん・ご家族の方々のご協力に深く感謝いたします。

2011年5月24日火曜日

ホームステイ型医学教育研修プログラム~「地域で生きる」医師の定着に向けて~

福島県内各地の地域医療教育研修協力医療機関を舞台に実施される毎年恒例のホームステイ型の地域医療実習が、今月から、いわきでも復活した。
これは、福島医大が提案する「ホームステイ型医学教育研修プログラム」の特徴的な実習教育ツールの一つで、医学部6年生が地域住民家庭でのホームステイを経験しながら医療研修を実施することによって、医学生の地域医療と地域生活に関する深い理解を促進し、さらに地域への医師定着に結びつけることを目的としている。

被災地という特殊な事情を抱えるこの地へのホームステイを、あえて選択してくれた熱意ある学生さん達と時間を共有することで、自身の医療人としての日々を振り返ることができる。

「医大での医療との違いは?」との問いに
・主にcommon diseaseをあつかう
・1人の患者さんに対し長期にわたりかかわる
・疾患に治療だけでなく、患者さんの周辺の状況や治療後の生活までを考慮している
・高齢者を通り越して超高齢者も多い
・高度な専門医療を要する疾患以外は、極力1人の医師が包括的に診療している
などなど回答してくれる学生さんたち・・・

結構ちゃんと見て学んでくれているじゃないか!
学生さんの回答が、逆に自分達の役割を再認識させてくれる。

例年のように、ウニ・カツオなどなど いわきの海の幸を堪能!
とはいかないのは非常に残念ではあるけれど、学生さんの存在が我々のやる気を後押ししてくれることは間違いないようだ。

自らも被災者でありながら快くホームステイを引き受けてくださった大家さんに深く感謝する。

2011年5月19日木曜日

福島で創る家庭医療 (第62回 FaMReF)

福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座月例のFaMReF。
FaMReFとは、Family Medicine Resident Forumの略称です。毎月1回、定期開催しています。
地域・家庭医療学講座の後期研修医による「家庭医を特徴づける能力」に基づいたプレゼンテーション、ゲスト講師及び地域・家庭医療学講座スタッフによる家庭医療に不可欠な知識のレクチャーなどを通し、家庭医療についての理解を深めるだけでなく、家庭医として患者さん・地域に提供できるケアの可能性を広げていくことを目的としています。
また、葛西教授による「cinemeducation」という、映画の一場面を使って、登場人物の感情や人間関係などについてディスカッションする、とても好評なセッションもあります。

6月のメインテーマは「福島で創る家庭医療」→チラシはこちら
今回は、新たに家庭医研修・教育の拠点としてオープンした「喜多方市 地域・家庭医療センター」の開院報告もあります。

県内各地で災害医療を経験した当講座員や医大学生らが、福島ならではの家庭医療の構築に歩みを進めます。
興味のおありの方ならどなたでもご参加大歓迎です。

※フォーラム終了後には、懇親夕食会があります。
こちらもどなたでもご参加大歓迎ですが、準備の都合上、できれば6月8日までのお申し込みを!





*お問合せ・参加申込は地域・家庭医療学講座HPから
http://www.fmu.ac.jp/home/comfam/10_famref.html

<会場>
福島県立医科大学 会議室 (総合科学系研究棟4階)
http://www.fmu.ac.jp/univ/daigaku/campusmap.html#1
(学内マップの①のところ)

<日時>
平成23年6月11日(土) 14:00~17:00

<内容>
 1. 新教育拠点「喜多方市 地域・家庭医療センターオープン報告」
 2. Reflection of the month (当講座後期研修による家庭医を特徴づける能力に基づくプレゼンテーション)
 3. 福島県内の各教育サイトの特長および研修内容の報告
 4. Cinemeducation (葛西龍樹教授)

<フォーラム参加費>
無料

2011年5月16日月曜日

「福島からのメッセージ」 家庭医療レジデント・フォーラム in 東京 (第61回FaMReF)

都内を中心に北は福島県伊達市(自前)から南は長崎まで熱心な医学生や研修の方々に参加していただき、総勢40名を超える賑やかなフォーラムとなった。
これも(ここはネガティブな意味での)福島のネームバリューなのか?
皆さんから多くの励ましの言葉をいただき、講座員一同、これからも長期にわたって震災・津波・原発事故の三重苦への対処が必要になってくる(ここはポジティブな意味での)福島でしか学べない家庭医療、福島だからこそ創ることができる家庭医療の構築に全力を注ぐ決意を新たにした。

<内容報告>
①ようこそ福島の家庭医療へ
福島医大 地域・家庭医療学講座 主任 葛西龍樹 教授
 当講座における取組の概要を外部参加者に理解していただいた。
②福島の家庭医療紹介
 福島医大 地域・家庭医療学講座 後期研修4年目 鵜飼友彦
  家庭医療の概念や後期研修をとおして感じた家庭医療への熱い想いが語られた。
③「福島からのメッセージ」 
県内各研修協力医療機関で研修中の後期研修医・講座スタッフによる震災対応報告がなされた。災害時における家庭医の役割を認識するとともに、災害後も長期にわたり生物的・心理的・社会的に複雑な健康問題・健康リスクをかかえる多くの住民に対する家庭医の存在意義・役割を再確認した。
④ゲスト講演Ⅰ
 医療法人社団永生会永生病院理事長 安藤高朗先生
  東日本大震災医療救援報告をとおして、国民が求める24時間365 機能するかかりつけ医としての家庭医の必要性が述べられた。震災からの復興に向けて家庭医の役割は大きいものと考えられる。
⑤ゲスト講演Ⅱ
 医療法人社団 鉄祐会 祐ホームクリニック院長 武藤真祐先生
  日本初の「高齢先進国モデル構想」が示された。超高齢化社会をむかえた日本における問題意識の重要性と、具体的な解決策として医療を地域のインフラと位置付けて供給体制を整える試みが紹介された。
Cinemeducation
「シッコ」Sicko(2007) Michael Moore
カナダ・イギリス・フランスなどとアメリカとの医療費個人負担の極端な差異が示され、地域の健康を実現するためには、病院機能、医師の技能だけでなく、制度改革が必要であることを学んだ。家庭医の仕事として地域の医療資源がうまく活用できるようコーディネートできる能力が求められる。

久々の上京にソワソワしてしまった田舎者だが、帰りの車中で目にした東京の街は、自分が知っているそれではなく、はるかに薄暗いものだった。
今回の災害がもたらした影響の規模の大きさを改めて痛感するとともに、節電という形でのチームプレーが続いていることに深く感謝した。

2011年5月7日土曜日

I have a family, too. ~蕎麦を打つ家庭医~

いつ取れるか分からない私の休暇・・・
だからそれはいつも突然やってくる。
いつもいつも行き当たりばったりのasshi家の家族旅行。
GWも終盤となり、ようやくとれた家族のための時間。
「福島県を盛り上げよう」と“今日泊まれる宿”を福島県内限定で検索してみる。

ムムムッ・・・

予感はしていたが、嬉しい悲鳴というかほとんどヒットしない。

GWの前半は閑古鳥だった県内各地の観光地。
原発から遥か120km以上も離れていて、放射線レベルも事故後とほとんど変わらない会津地方ですら風評被害で死活問題となっていた・・・
その事態が報じられてから駆け込み被災地支援の輪が拡がって沢山の方々が東北へ足を運んでくださっているようだ。

なんとか一件ヒットした南会津のとあるペンションをゲット!

朝一で向かったのは世界遺産「大内宿」
江戸時代の宿場町にタイムスリップ。
屋外で家族とのんびり散歩できる幸せを感じながら、お昼はお約束の長ネギ一本を箸代わりに名物の蕎麦をいただく。

ペンションでは、ご主人から正真正銘の十割蕎麦打ちを伝授してもらう。

極めてシンプルながら、一切の誤魔化しの利かない世界。

「こうすれば成功する」というマニュアルが無いかわりに、失敗する度に得る「あの時こうすれば違ったかも…」という情報を身体に蓄積させていく…
初めて知ったことだが、蕎麦打ちに粉:水=○:△などというレシピは存在しないのだという。
その日の気温・湿度・打ち手の体温・手際・気圧・妖気・霊気などなど、打つ度に異なる種々の条件が微妙な差を生じさせる。
打ち手はその微妙な違いを生地の手触りだけで感じ取るしかないそうだ。
家庭医療にも通じるところがある。
医学には動かしがたい科学的な事実を記したテキストは存在するかも知れないが、成功を保証するマニュアルは存在しない。
同じ疾患であっても患者さん1人1人全く違う経験をしつつ医療機関を訪れる。
同じ疾患であっても医療機関を訪れない患者さんすらいる。
更に、それを拝見する医師の技量・その日の医師の体調・医師との相性もその後の患者さんの病気の体験を大きく左右する。

医師は日々自身のコミュニケーション能力を磨き、その微妙な違いを肌で感じ取るしかないのだ。
だから我々は、毎日反省しながら「もっと素敵に!」と医療のアートの部分を鍛錬しているのだと改めて実感した。

それにしても家族旅行しながらこんなこと考えている時点でほとんど病気!
職業病なだけまだましか・・・